資料:南方占領地行政実施要領

1941年11月20日 大本営政府連絡会議決定
原文閲覧: 国立公文書館アジア歴史資料センター Ref. C12120152100


 開戦直前に、侵攻地占領後の処理方針を指示した文書です。
 何がしたくて攻め込む事にしたのか、この文書をみればはっきりします。

 ひとまず占領体制を固めた後に出てくるのは国防資源確保の話です。「要領」のニから五まで、ほぼ資源確保と輸送の話で占められています。
 七では「民生に及ぼさるるを得ざる重圧は之を忍ばしめ」と言い、資源確保や占領軍の”自活”(占領軍の食糧等を占領地で調達・徴発する事)のため現地住民の生活に及ぼす苦痛は我慢させろと指示しています。
 八では「現住土民(ママ)…の独立運動は過早に誘発せしむることを避くるものとす」、即ち独立運動は当面抑えろと言っています。

 戦争目的が資源の確保収奪であり、本音では「アジアの解放」なんか何の関係もなかった事が、この史料ではっきりします。


第一 方針
占領地に対しては差し当り軍政を実施し治安の恢復、重要国防資源の急速獲得および作戦軍の自活確保に資す
占領地領域の最終的帰属ならびに将来に対する処理に関しては別に之を定むるものとす
第二 要領
一、 軍政実施に当りては極力残存統治機構を利用するものとし、従来の組織および民族的慣行を尊重す
ニ、 作戦に支障なき限り占領軍は重要国防資源の獲得および開発を促進すべき措置を講ずるものとす
占領地に於て開発又は取得したる重要国防資源は、之を中央の物動計画に織り込むものとし、作戦軍の現地自活に必要なるものは右配分計画に基き之を現地に充当するを原則とす
三、 物資の対日輸送は陸海軍に於て極力之を援助し、かつ陸海軍は其の徴傭船を全幅活用するに努む
四、 鉄道、船舶、港湾、航空、通信および郵政は占領軍に於て之を管理す
五、 占領軍は貿易および為替管理を施行し特に石油、護謨、錫、「タングステン」、「キナ」等の特殊重要資源の対敵流出を防止す
六、 通貨は勉めて従来の現地通貨を活用流通せしむるを原則とし、已むを得ざる場合にありては外貨標示軍票を使用す
七、 国防資源取得と占領軍の現地自活の為民生に及ぼさるるを得ざる重圧は之を忍ばしめ、宣撫上の要求は右目的に反せざる限度に止むるものとす
八、 米、英、蘭国人に対する取扱は軍政実施に協力せしむる如く指導するも、之に応ぜざるものは退去其の他適宜の措置を講ず
枢軸国人の現存権益は之を尊重するも、爾後の拡張は勉めて制限す
華僑に対しては蒋政権より離反し我が施策に協力同調せしむるものとす
現住土民に対しては皇軍に対する信倚観念を助長せしむる如く指導し、其の独立運動は過早に誘発せしむることを避くるものとす
九、 作戦開始後新に進出すべき邦人は事前に其の素質を厳選するも、嘗て是等の地方に在住せし帰朝者の再渡航に関しては優先的に考慮す
一〇、 軍政実施に関連し措置すべき事項左の如し
イ、 現地軍政に関する重要事項は大本営政府連絡会議の議を経て之を決定す
中央の決定事項は之を陸海軍より夫々現地軍に指示するものとす
ロ、 資源の取得および開発に関する企画および統制は差当り企画院を中心とする中央の機関に於て之を行うものとす
ハ、 仏印および泰に対しては既定方針に拠り施策し、軍政を施行せず情況激変せる場合の処置は別に定む
備考
一、 占領地に対する帝国施策の進捗に伴ひ、軍政運営機構は逐次之を政府の設置すべき新機構に統合調整または移管せらるものとす