資料:帝国国策遂行要領 (1941.11.5)

1941年11月5日 御前会議決定
原文閲覧: 国立公文書館アジア歴史資料センター Ref. C12120186200



 東條内閣発足後の御前会議における決定で、対米交渉の条件表現を緩和しつつ開戦時期を明示したものです。
 この決定に基づいて12月8日の開戦につき進んでいきます。

一、 帝国は現下の危局を打開して自存自衛を完うし大東亜の新秩序を建設する為、比の際対米英蘭戦争を決意し左記処置を採る
武力発動の時機を十二月初旬と定め、陸海軍は作戦準備を完整す
対米交渉は別紙要領に依り之を行う
独伊との提携強化を図る
武力発動の直前、泰との間に軍事的緊密関係を樹立す
ニ、 対米交渉が十二月一日午前零時迄に成功せば武力発動を中止す
 
別紙 対米交渉要領
対米交渉は、従来懸案となれる重要事項の表現方式を緩和修正する別記甲案あるいは別記乙案を以て交渉に臨み、之が妥結を計るものとす
 
甲案
日米交渉懸案中最重要なる事項は(一)支那および仏印に於ける駐兵および撤兵問題、(ニ)支那に於ける通商差別問題、(三)三国条約の解釈および履行問題および(四)四原則問題なる所、之等諸項に付ては左記の程度に之を緩和す
(一) 支那に於ける駐兵および撤兵問題
本件に付ては米国側は駐兵の理由は暫く之を別とし、(イ)不確定期間の駐兵を重視し、(ロ)平和解決条件中に之を包含せしむることに異議を有し、(ハ)撤兵に関し更に明確なる意思表示を要望し居るに鑑み、次の諸案程度に緩和す
日支事変の為支那に派遣せられたる日本国軍隊は、北支および蒙彊の一定地域および海南島に関しては日支間平和成立後所要期間駐屯すべく、爾余の軍隊は平和成立と同時に日支間に別に定めらるる所に従ひ撤去を開始し、二年以内に之を完了すべし
(註) 所要時間に付米側より質問ありたる場合は概ね二十五年を目途とするものなる旨を以て応酬するものとす
(ニ) 仏印に於ける駐兵および撤兵
本件に付ては、米側は日本は仏印に対し領土的野心を有し、かつ近接地方に対する武力進出の基地たらしめんとするものなりとの危惧の念を有すと認めらるるを以て、次の案程度に緩和す
日本国政府は仏領印度支那の領土主権を尊重す、現に仏領印度支那に派遣せられ居る日本国軍隊は支那事変にして解決するか又は公正なる極東平和の確立するに於ては直に之を撤去すべし
(三) 支那に於ける通商無差別待遇問題
本件に付ては既提出の九月二十五日案にて到底妥結の見込みなき場合には次の案を以て対処するものとす
日本国政府は無差別原則が全世界に適用せらるるものなるに於ては太平洋全地域すなわち支那に於ても本原則の行わるることを承認す
(四) 三国条約の解釈及履行問題
本件に付ては、我方としては自衛権の解釈を濫に拡大する意図なきことを更に明瞭にすると共に、三国条約の解釈および履行に関しては我方は従来屢々説明せる如く日本国政府の自ら決定する所に依りて行動する次第にして、此点は既に米国側の了承を得たるものなりと思考する旨を以て応酬す
(五) 米側の所謂四原則に付ては、之を日米間の正式妥結事項(了解案たると又は其他の声明たるとを問はず)中に包含せしむることは極力回避す
 
乙案
一、 日米両国は孰れも仏印以外の南東亜細亜および南太平洋地域に武力的進出を行わざることを約すべし
ニ、 日米両国政府は蘭領印度に於て其の必要とする物資の獲得が保障せらるる様相互に協力すべし
三、 日米両国政府は相互に通商関係を資産凍結前の状態に復帰せしむべし
米国は所要の石油の対日供給を約すべし
四、 米国政府は日支両国の和平に関する努力に支障を与うるが如き行動に出でざるべし
  備考
一、 必要に応じ、本取極成立せば南部仏印駐屯中の日本軍は仏国政府の諒解を得て北部仏印に移駐するの用意あること、ならびに支那事変解決するか又は太平洋地域に於ける公正なる平和確立の上は前記日本国軍隊を仏印より撤退すべきことを約束し差支無し
ニ、 なお必要に応じては、従来の提案(最後案)中にありたる通商無差別待遇に関する規定および三国条約の解釈および履行に関する既定を追加挿入するものとす